クラミドモナスのゲームにっき

ポケモンのパーティ構築記事とか遊戯王のデッキ構築記事とか書きます。あともしかしたらRPGの制限プレイ攻略レポートとか書くかも。

「家は生態系 あなたは20万種の生き物と暮らしている」の書評・感想

記事の内容はタイトルにある通り、ロブ・ダン著の「Never Home Alone」、邦題「家は生態系 あなたは20万種の生き物と暮らしている」の書評となります。

まあ書評というほどエラそうなものではなく、ゆるりと読書感想文を書いていくよ、程度の内容です。

 

ゲームにっきとかいうブログタイトルからかけ離れている記事になっちゃってるけど、そういう日もある。

 

一応内容のざっくりとした要約を書いておきます。

 

内容の要約

・家には見えてないだけでいっぱい生き物がいるよ

・"G"やクモのような節足動物ももちろんいるけれど、家にいる生物種のほとんどは細菌と真菌だよ

・家にいる生き物には人間にとって都合の悪いやつもいるけれど、概して無害だ。有益なものもあるよ

・化学薬品等を用いて殲滅するなど、家にいる生き物を排除しようとするのは無価値なばかりか、おそらく有害だ。家の中の生物が多様であるほど自己免疫疾患が発生しにくいということも知られてきているよ

・ただし、どの生物種(あるいは生物種の組み合わせ)が自己免疫疾患を抑制してくれるのかは定かではない。どの種が人間にとって有益なのかを網羅的に調べるのが困難な以上は、多様な生物と触れ合う機会を失わないようにしよう

・生物を抗生物質や薬品を用いて強引に制御しようとするのは長期的な視点に立つと上手くいかない。生物は迅速に対抗手段を進化させてしまうよ

 

感想

 

生き物との賢い付き合い方

この本で繰り返されているように、家の中の生物を排除・殲滅して回ろうとするのは不可能であるし、無価値なばかりか有害である。

家の中の生物多様性、ひいては家の周囲の環境の生物多様性が、多様な細菌との接触を増やし、人間の自己免疫疾患を抑制してくれる、という知見はより広く知られていって欲しいなと思った。なんで生物多様性が大事なの?という問いに対する分かりやすい答えの一つになると思う。本来(?)はもっと高頻度に接触するはずの細菌類との接触が少なくなったことにより、免疫系がバグを起こして攻撃的になってしまうというのは何とも皮肉な話である。潔癖すぎるのも考え物だ(ただし、手洗いは筆者も推奨しているしわざと汚れようというものではない)。まずは閉めきった窓を開けてみることからはじめてみるといいかもしれない。

 

予想外の進化

チャバネゴキブリの進化の話は興味深かった。ホウ酸ダンゴのような毒餌を撒いても、ある家の中のゴキブリは何故か死ななかった。それは何故か?ゴキブリの進化によって毒餌が効かなくなったとすると、ついつい安直に「毒に対する抵抗性を進化させたのかな?」と予想してしまう。

しかし、この時のゴキブリは毒に対する耐性を進化させたわけでも、毒を知覚して毒餌を避ける進化を引き起こしたわけでもなかった。なんと毒餌にゴキブリを誘引するためのグルコースそのものを忌避する性質を進化させていたのだ。グルコースそのものを忌避してしまうようなゴキブリは、毒餌を食べずに済むということだった。

 

こんな予想外の進化を聞いて、PCRすり抜けウイルスの話を思い出した。

コロナウイルスが流行した時、感染を広げやすい株や既存のワクチンが効きにくい株が進化し、急速に感染を拡大させていた。進化の方向性として、「ワクチンが効きにくい」「ヒト間での感染を広げやすい」といった性質が広がるのは非常に直観的であり予想がつく。

しかし、(大事にはならなかったらしいけれど)「PCR検査によって陰性になる」株が広がっていたらしいことがわかっている。

PCR検査すり抜ける新変異株 フランスで発見、調査:朝日新聞デジタル

突然変異によってプライマー配列に異常が生じ、PCR検査によって陰性が出てしまうウイルスが出ることは考えてみると別に不思議ではない。しかも、そのようなウイルスはPCR陰性となって人間によるウイルス感染者の隔離・管理から逃れることができるため、検査で陽性が出るウイルスよりも広まりやすいのだろう。このことも想像に難くない。

しかしながら、そのような検査すり抜けウイルスが発生することを「発生する前から」私達は予測できるだろうか?毒餌に対する対抗手段としてグルコースを忌避するゴキブリが進化することを予想できるだろうか?不可能とは言わないまでも、ありそうな進化の方向性を予測することは極めて困難だなあと感じた。生物の進化はあまりにも柔軟で、全く予想もしない方法で人間による管理から逃れようとしてくる。

ただし、生物の進化は万能ではないということは言い添えておく。本文中にも記載があったが、グルコースを忌避するゴキブリはそうでないゴキブリよりも「モテない」。その上当然ながら毒餌でないグルコースを利用できない点でも不利益を被っていると言える。そのようなモテない上に偏食家のゴキブリが繁栄できてしまうのは、人間が強引に毒物によって排除しようとするからにほかならないのだ。

 

潜在的利用価値の話

生物多様性、という言葉を最近よく聞くようになっていると思う。その手の問題に関心がある身としては嬉しい限りだ。で、なんで生物多様性が大事なの?という問いに対する答えのうちの一つが「潜在的利用価値」だ。よくわからん生態系にいるよくわからん生物が新薬や抗生物質の開発に繋がったりすることがある。だから、いつどんな時に役立つかわからないから生物多様性が大事なんだ、というのは比較的分かりやすいと思う。

どうしても生物多様性というと熱帯のジャングルのような場所を想像しがちだし、教科書的にも熱帯のジャングルが多様であることは正しい。しかしながら、家の中の給湯器から耐熱性のDNAポリメラーゼを持つ古細菌が見つかったという話は、かならずしも原生的な環境から利用価値のある生物が見つかるわけではないことを示している。PCR法に革新をもたらしたDNAポリメラーゼの発見は火山近くの間欠泉の調査によって起こったが、実は給湯器を調べるだけでも良かったのである!

ちなみに、DNAを扱う際に幅広く使われるPCR法(コロナのPCR検査などは幅広い利用法のごく一部である)には、古細菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼが使われている。古細菌様様である。

リグニン分解能を持つ細菌を家の中のカマドウマから見つけた話もそうだが、家や都市生態系にも利用価値のある生物であふれているのだろう。だから、原生的な自然環境だけでなく人工的な"自然"環境の在り方もいろいろ考えていく必要がありそうだ。もっとも、都市生態系の保全についてはしばらく前から言われていることではあるが。

 

そして、利用価値を考える時に生態学者が橋渡しをしなければならないというのは非常に面白い視点だと感じた。闇雲に熱帯林の生物相を調べてもガンの新薬が見つからないという事例も印象的だった。ある生物がどんな生態を持っていてどんな応用が期待できるのか、あるいは応用が期待できそうな性質を持つ生態の生物はどんな生物なのか……こういった視点を取り入れる必要があるなあと思った。生態学者は潜在的利用価値を主張する割に利用に関して興味関心を向けない、と小言を言っていたのもちょっと面白かった(的を得ていると思う)。

 

 

ペットの話

ペットがいるとペットの体内や体表にいる多様な生物種と関わる機会が増える。これによって自己免疫疾患等は抑制されそうだし、さらに精神的に良い効果があることも明らかにされつつある。

ネコの持ち込むトキソプラズマに感染した人間はリスク選好的になり、交通事故に遭う可能性を増加させ、統合失調症のリスクを増加させる…と、寄生虫による脳のコントロールが人間にまで及ぶ例が紹介されていた。これ読んじゃうと猫吸いにちょっと抵抗出てきちゃうな

結局のところ、家の中の生物が良いとか悪いとか一概に言える話ではないのだ。

 

研究のプロセス

SNS等を活用しながら市民参加を積極的に取り入れる研究スタイルは非常に面白いなと思った。家という研究対象ともマッチしていたのだろうが、家の中のホコリを綿棒で拭って送って!などというデータの集め方はなかなかクレイジー

市民参加以外でも、かなり異分野との交流を積極的に楽しんでいる風なのが伝わってきて、学際的で柔軟だなあと。

 

ちょっと物足りなかったこと

・相互作用に関する記述が少ない

生態学は生物と生物、生物と非生物の繋がりに注目した学問である。どうしてもこの手の話題になると生物どうしの関わりが気になる。今回紹介されてた内容は、家の中にどんな生物がいるのか、そしてそれが人間とどう関わるのか、といった問題に焦点が当てられていた。

そのため、家の中のクモは何をどのくらい食べているのかであるとか、人間由来の有機物がどの程度供給されてどのように流れていくのか、等の家の生態系の性質が気になってきた。おそらくこういった研究はまだ知見が蓄積されていないのだろう。

 

・ウイルスが完全に無視されている

種数の解析でもウイルスは取り扱ってないと明言されていたし、ウイルスに関する考察はなされていなかった。おそらく家の中には無数のウイルスがいるだろう。それらの一部は人間に感染して特に害のないウイルスかもしれないし、人間に感染するウイルスのさらにごく一部は多数が同時に侵入すれば病原性を示すかもしれない。

しかし、おそらく人間に感染するウイルスよりもずっと多くの数の、人間以外に感染するウイルス粒子があふれているんじゃないかと思う(根拠はないが多分そう)。人間の常在菌に感染するウイルスや、家の中の多様な細菌や真菌に感染するウイルスが沢山いそうである。そのあたりの話も個人的には気になる点なので、今後研究されていくといいなあ。

 

最後に

題材が身近なので、比較的この分野に詳しくない人でも楽しく読める読み物なんじゃないかなあと思います。

紹介される事例の一つ一つが面白いし、それをここで全て挙げていくわけにもいかないので、気になったら是非手に取ってみてはいかがでしょうか。

 

ではではこんなところで。

 

 

これからも気まぐれに本の感想文とか書くかもしれません。今回みたいな比較的真面目なやつもだけど、小説の感想を書くのもアリかも?